3行まとめ
- 1.GAPファンド(JST 大学発新産業創出基金事業)の直接経費で開発を外注できるのは、「研究開発要素を含まず、役務仕様が決まっており、作業のみを外注する請負契約」に限られます。研究の全部または一部を第三者に任せる再委託は認められません。
- 2.したがって最初の作業は業者探しではなく、「研究室でやる研究」と「外注する作業」の線引きです。アルゴリズムの改良や精度検証は研究側に残し、仕様を書き切れる部分——画面・データ管理・認証・クラウド環境——を外注に切り出します。
- 3.外注の成否は仕様書で決まります。仕様書は契約の範囲を決めるだけでなく、検収の基準にもなります。プログラム開発は文部科学省のガイドラインで検収に明確なルールが求められる「特殊な役務」です。医療情報を扱うなら、3省2ガイドライン対応と医療機器該当性の前提も仕様書の段階で書き込みます。
1. この記事の前提 — GAPファンドの「外注費」には決まった形がある
大学の研究成果を起業につなげるための GAPファンド は、現在、JST の「大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム」のもとで、各地域のプラットフォーム(PF)が公募・運営しています。たとえば北海道の HSFC の2026年度公募では、直接経費の上限がステップ1(応用研究)で300万〜500万円、ステップ2(概念実証・スタートアップ組成)で500万〜6,000万円に設定されています(プログラム型により異なる)。
この段階のチームの多くは、研究代表者と数名の研究者で、ソフトウェア開発者はいません。医療・ヘルスケアのシーズでは、画像解析AIの結果を医師に見せる画面、患者データを集めるアプリ、検証用のWebシステムなど、「動くプロダクト」を外注で作る必要が出てきます。
ここで最初に知っておくべきなのが、外注費として直接経費に計上できる契約の形が決まっていることです。JST のハンドブックはこう定めています。
研究開発要素を含まず、役務仕様が決まっており、作業のみを外注する請負契約については直接経費での計上が認められています。本研究の全部又は一部を第三者に委託すること(再委託)は認められません。(JST スタートアップ・エコシステム共創プログラム ハンドブック 2026年度「Ⅳ.2.費目別のガイドライン・証拠書類」その他(1)外注費)
PFの公募要領にも同じ文言が載っています(例: HSFC GAPファンド 2026年度公募要領 2.6.5)。また、ハンドブックは費目「その他」の例として「外注費(ソフトウェア外注製作費、検査業務費等)」を挙げています。つまり、ソフトウェアの外注製作そのものは計上できる一方で、「研究開発要素を含まない」「仕様が決まっている」「作業のみ」「請負」の4条件を満たす形に整える必要があります。以下では、この1文から逆算した進め方を5つの手順で整理します。
2. 手順① 研究と外注の線引き — 「何を研究室に残すか」を先に決める
4条件のうち、実務で最も迷うのが「研究開発要素を含まない」です。研究成果のプロダクト化では、研究と開発が地続きに見えるからです。判断の軸は、その作業の結果が事前に仕様として書けるかです。結果が分からないから試す作業は研究、結果を仕様に書ける作業は外注、と考えると整理しやすくなります。
| 研究室に残す(研究開発要素) | 外注に切り出せる(仕様が書ける作業) |
|---|---|
| 解析アルゴリズムの改良・新しいモデルの開発 | 完成したモデルを呼び出して結果を表示する画面 |
| 精度の検証・評価指標の設計 | 検証に使うデータの登録・管理画面、ログの出力 |
| どの特徴量・どのデータが効くかの試行錯誤 | 決まった項目を入力・保存するアプリ(スマートフォン・Web) |
| 臨床的な意義の評価・研究計画 | ログイン・権限管理・クラウド環境の構築と設定 |
ポイントは、「AIの精度を上げてほしい」「最適な手法を探してほしい」という依頼は外注にならないことです。結果が仕様として書けず、研究の一部を第三者に任せる形——つまり認められない再委託——に近づきます。逆に、研究室で作ったモデルを固定し、「この入力に対してこのモデルを呼び、この画面にこの形式で表示する」と書ければ、それは作業の請負です。
研究と外注を分けると、プロダクトの構成も素直になります。モデル(研究成果)とアプリ(器)を分けて作っておけば、モデルを改良しても器はそのまま使えます。将来、医療機器プログラム(SaMD)として承認を目指す場合にも、変更の範囲を説明しやすい構成です。
3. 手順② 仕様書を書く — 「役務仕様が予め決まっている」を文書で示す
2つ目の条件「役務仕様が決まっている」を満たす証拠が、仕様書です。仕様書は業者に作業範囲を伝える文書であると同時に、後で行う検収の基準にもなります。最低限、次の項目を入れます。
| 項目 | 書くこと | よくある抜け |
|---|---|---|
| 目的と範囲 | 課題のどのマイルストンのための開発か。作るもの・作らないもの | 「作らないもの」が書かれず、範囲が膨らむ |
| 機能一覧 | 画面・機能ごとに、入力・処理・出力 | 「AIで判定」のように、研究側の中身が仕様に混ざる |
| 非機能要件 | 利用者数・データ量・稼働環境(クラウド)・セキュリティ | 医療情報の扱い(後述5章)が抜ける |
| 納品物 | プログラム一式・設計書・操作手順書・テスト結果 | ソースコードが納品物に入っていない |
| 納期と検収 | 納品日、検収の方法(どの手順で何を確認すれば合格か) | 検収の方法が決まっておらず、「動いた気がする」で終わる |
| 権利と秘密保持 | 成果物(ソースコード・設計書)の権利の帰属、研究データの取扱い | 権利の帰属が書かれず、次のステップで改修できない |
仕様書に研究の中身を書きすぎないことも大切です。モデルの中身は研究室側の成果として扱い、仕様書には「研究室から提供するモデル(形式・入出力)を組み込む」と、受け渡しの境界だけを書きます。これが手順①の線引きを文書にしたものになります。
仕様書をどこまで書き切れるかは、研究室側だけでは判断しにくい部分です。業者選定の前に、候補の業者から参考見積と仕様の確認を受けておくと、「書けていない仕様」が見つかります(このとき、見積をもらった業者が有利にならないよう、確定した仕様書は全員に同じものを渡します)。
4. 手順③ 業者を選び、発注・検収する — 研究者だけで完結させない
4.1 選定は所属機関の規程に従う
発注は所属機関の調達規程に従います。金額に応じた相見積・入札の要否、随意契約にする場合の理由書などは、機関ごとに定めがあります。JST のハンドブックも、経費は原則として各研究開発機関の規程に従って支出・管理するとしています。
注意が必要なのは、研究チームに参加している企業から調達する場合です。ハンドブックは、チーム内の共同研究企業から調達するときは原則として競争原理を導入した調達(入札または相見積もり)を行い、競争によらない場合は利益排除などの措置を検討するよう求めています。「研究者の知り合いの会社に頼む」形は、このルールに当たらないかを事前に担当部署に確認します。
4.2 発注・検収は事務部門が原則
文部科学省「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」は、発注・検収業務は原則として事務部門が実施し、当事者以外によるチェックが有効に機能する仕組みにすることを機関に求めています。業者に対しては、一定の取引実績に応じて誓約書の提出を求めることも定めています。研究者が業者と直接話を進めて「あとは事務に回すだけ」にすると、ここで手戻りが起きます。仕様書の段階から担当部署を巻き込むのが近道です。
4.3 プログラム開発は「特殊な役務」— 検収の方法を先に決める
同じガイドラインは、データベース・プログラム・デジタルコンテンツの開発・作成を「特殊な役務」と位置づけ、検収について実効性のある明確なルールを定めた上で運用することを求めています。物品のように「届いたものを見る」だけでは確認できないためです。各大学は、動作確認や作業報告書の提出など、独自の検収手順を定めています。
外注する側でできる準備は、検収できる単位で納品物を分けておくことです。
- 機能ごとに「この操作をすると、この結果が出る」という確認手順を仕様書に書いておく
- 納品時にテスト結果と作業報告書(工程・作業内容)を提出してもらう
- 検収担当者が操作できる確認用の環境(URL・アカウント)を用意してもらう
開発期間が長い場合は、中間の納品と検収を設けると、仕様のずれを早く見つけられます。
5. 手順④ 医療情報を扱うなら、仕様書の段階で書き込む
医療・ヘルスケアのシーズでは、外注するプロダクトが患者データや医療機関のデータを扱うことが多くあります。ここは研究段階では問われにくく、事業段階で必ず問われる論点です(詳しくは大学発シーズが最初につまずく3つの規制論点)。GAPファンドの外注では、次の3点を仕様書と契約に入れるのが、後から最も安く済む方法です。
- データの範囲と同意: 外注先にどのデータを渡すのか(渡さないのか)。研究で集めたデータを開発・テストに使う場合、同意と研究計画の範囲に入っているかを、仕様書を書く前に研究室側で確認します。テストには架空のデータを使うと決めてしまうのが最も安全です。
- 3省2ガイドラインの前提: 将来、医療機関にサービスとして提供するなら、提供事業者には3省2ガイドラインへの対応が求められます。クラウドの構成・認証の方式・ログの持ち方は、後から変えると作り直しになる部分です。「どの要件を最初の版で満たし、どれを後の版に回すか」を仕様書に書いておくと、次のステップの開発費が読めるようになります(費用感の考え方は3省2ガイドライン対応の進め方と費用感)。
- 医療機器該当性の前提: 画面に何を表示するか(診断の補助なのか、記録の整理なのか)で、医療機器プログラムに該当するかが変わります。表示の文言と使い方を仕様書で決めることは、該当性の整理そのものです(線引きは「診断を代替しない」と書けば医療機器ではなくなるのか)。
6. 手順⑤ 期間内に終わらせ、次のステップにつなぐ
GAPファンドの経費は、課題の契約期間に沿って執行します。JST のハンドブックは、計画的な執行に努め、活動期間終了時や年度末の予算消化を目的とした調達をしないよう求めています。開発の外注では、次の順番で日程を組みます。
- 納品・検収・支払が期間内に終わるように、納期は期間の終わりから逆算して余裕を持たせる(検収と支払の事務手続きにも日数がかかる)
- 1回の外注で全部を作ろうとせず、ステップ・年度ごとに分ける(例: ステップ1で検証用の最小限の版、ステップ2で利用者を広げる版と法令対応)
- 成果物の権利(ソースコード・設計書)を発注者側に残す契約にしておく。次のステップで別の業者に改修を頼む場合や、起業後の会社に引き継ぐ場合に必要になります。研究成果の知的財産の扱いは、所属機関の知財担当と相談します
起業後は、同じプロダクトの開発費が会社の資金(出資・補助金など)に変わります。GAPファンドの段階で仕様書・設計書・ソースコードが揃っていれば、起業後の開発や資金調達の説明がそのまま使えます。
7. まとめ — 外注前のチェックリスト
| # | 確認すること | 根拠・参照 |
|---|---|---|
| 1 | 外注する作業に研究開発要素が入っていない(結果を仕様として書ける) | ハンドブック「外注費」 |
| 2 | 研究の全部・一部を任せる再委託になっていない | 同上 |
| 3 | 仕様書に機能・納品物・納期・検収方法・権利の帰属が書かれている | 本記事3章 |
| 4 | 相見積・随意契約理由など、所属機関の調達規程の手続きを確認した | ハンドブック Ⅳ.1・Ⅳ.4 |
| 5 | チーム内の企業から調達する場合、競争または利益排除の扱いを相談した | ハンドブック Ⅳ.4(4) |
| 6 | 発注・検収を事務部門と進めている。プログラム開発の検収手順を決めた | 文部科学省ガイドライン 第4節 |
| 7 | 医療情報のデータ範囲・3省2ガイドライン・該当性の前提を仕様書に入れた | 本記事5章 |
| 8 | 納品・検収・支払が期間内に終わる日程になっている | ハンドブック Ⅳ.1 |
GAPファンドの外注は、ルールを知っていれば難しいものではありません。「研究は研究室、仕様が書ける作業は外注」と線を引き、その線を仕様書に書く——この順番で進めれば、事務手続きも、次のステップへの引き継ぎも、同じ書類で回ります。
出典(一次資料)
- 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「研究開発課題の研究代表者の方へ(大学等)大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム ハンドブック(2026年度)」(2026年4月改訂 ver.3.0)— Ⅱ(再委託の制限)・Ⅳ.1(注意事項)・Ⅳ.2「その他(1)外注費」・Ⅳ.4(発注・検収、チーム内企業からの調達)
https://www.jst.go.jp/program/startupkikin/files/su-ecosys/su-ecosys_researcher-handbook_2026.pdf - 北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク(HSFC)「HSFC GAPファンド 2026年度 公募要領(ステップ1・ステップ2)」第2.2版(2026年8月17日改訂)— 2.2(募集枠・直接経費上限)・2.6.5(課題予算案・外注費)
https://www.noastec.jp/cms_sys/wp-content/uploads/2026/03/00_【2026】HSFC-GAPファンド_公募要領2.2版_0817.pdf - 文部科学省「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日文部科学大臣決定・令和3年2月1日改正)— 第4節(研究費の適正な運営・管理活動)
https://www.mext.go.jp/a_menu/kansa/houkoku/1343904_21.htm - JST「委託研究契約・事務処理説明書等」(大学等向け。経費の取扱いの原典)
https://www.jst.go.jp/contract/index2.html
本記事は上記の一次資料(2026年10月時点で確認)に基づいて作成していますが、GAPファンドの経費ルールはプラットフォーム・所属機関・公募回ごとに追加の定めがあります。個別の執行判断にあたっては、必ず最新の公募要領・事務処理説明書と、所属機関の規程・担当部署の確認を優先してください。本記事は特定の大学・課題の経費の適否を判断するものではありません。